品質マネジメントには、大きく2つ「品質管理」と「品質保証」からなり、平たくいえば、品質管理はしっかりと品質を作り込む活動であり、品質保証は品質が満足のいくレベルであることを保証するための活動ということができます。
品質保証を行うにあたってロボットシステムの導入を計画している組織は、ロボットに求める性能のイメージを持っています。SIerは、ロボットシステムを導入する組織(顧客)が求める性能に合致したロボットシステムを構築するために、顧客の要望を調査して要求を抽出し、仕様を決定し、設計・開発しなければなりません。SIerは、構築するロボットシステムの設計から製造、組立、試験、納入までのプロセスを確定し、プロセスに則った活動により、顧客の要求を満足するロボットシステムを構築することが重要です。
この一連のプロセス活動のなかで顧客の要求を満足していることの確証を得る活動がSIerの行う品質保証活動となります。品質保証活動の要素を以下に解説します。また図1にメーカ系SIerの品質保証活動プロセスフローの例を示しました。
ロボットシステムを開発・製造するにあたり、ロボットシステムの仕様を5W1Hの手法などを用いて整理したものを「コンセプト」といいます。ロボットシステムの開発では、コンセプトを明確にすることが重要です。コンセプトを実現するために、以下の要素を含めたプロジェクト計画書を策定します。プロジェクト計画書は開発・製造者間での共通理解として維持していきます。プロジェクト計画には協力会社による支援部分を含めるとともに、技術力びプロジェクト管理能力を評価して、必要な力量を伴った協力会社を選定することが大切です。
製品の品質に影響する複数の活動要素について、適用する範囲と方法を定めたものを品質計画といいます。SIer が既にISO 9001認証を取得している場合には、認証された品質マネジメントシステムの適用を検討します。ISO 9001認証を取得していない場合には、ISO 9001に要求されている各項目を参考に、適用する範囲と方法を計画します。また、協力会社の支援を得ている間は、SIerの品質マネジメントシステムを協力会社に適用させるか、協力会社が有するシステムの適用を認めるかの判断が必要です。
仕事のやり方を文書化することにより、ルールが確立します。これにより複数の人が同一作業に関わった場合でも、決めたとおりに仕事を行うことができます。また、開発のなかで作成した各種文書は、プロジェクトの活動を説明する証拠になり得るた め、 開 発 のライフサイクル の 各フェーズにおいて何を文書化するかプロジェクト計画書の中で定義しておくことが望ましいです。
文書には文字や図、写真、ビデオなどがあり、紙媒体のみなでなく電子データで記録しても良いです。 中身の詳しさは、組織の実情に合わせて決めていきます。複数のチーム員間で使いやすい文書にするためには、 組織の大きさ、仕事の種類、仕事の複雑さ、仕事のつながりの複雑さ、仕事をする人々の能力などを考えて記載粒度などを決めていきます。
開発・製造中の不適合、出荷した後の機能追加、クレームやヒヤリ・ハット、購入先の部品変更などを契機として、ロボットの設計変更が発生する場合があります。変更は確定しているベースラインに対して実施すべきです。変更する場合には、影響を分析て、ロボットシステムに対してリスクアセスメントを実施しなおすこと、ベースラインの確定に関わった関係者に変更を通知して承認を得ることが重要です。再リスクアセスメントは変更による影響に焦点を当てることが多いですが、特にソフトウェアの場合には、影響の範囲が予想外におよぶことがあります。またSIerは、どの時点から変更を反映させるのかを決定することが重要です。
ロボットシステムの構築では、システム固有の品質を確保しなければならないことが多いです。特に安全性に関しては、ロボットシステムに対してリスクアセスメントを実施し、設計仕様に反映させた上で対策を実施することになります。
設計仕様は、基本設計、詳細設計など、システムのライフサイクルの各フェーズにおいて段階的に専門家に意見を求めて設計審査、検証を行って開発を進めていくと手戻りの発生を少なくできます。購入品を含めたロボットシステムの設計が承認されると製造(設置)段階に移行するため、設計で確定した特性が製造(設置)に必要な製造図面、部品表、作業指示書、作業手順書などに反映され、製造(設置)するロボットシステムに確実に作り込まれることを検証しなければなりません。
協力会社(購買先)は明確な基準に則って選定します。設計から協力会社に依頼する場合、あるいはSIerの設計を基に製造を依頼する場合、カタログ品を購入する場合など、依頼内容を購買仕様書に定めます。適用する品質システムやSIerでの受入検査方法についても定め、責任分界点を明確にしておくと良いです。特にロボットの選定ではロボットシステムに要求される性能や品質を精査して行う必要があります。
ロボットシステムの品質を証明するのに必要な測定に使用した測定機器は、国際標準や国家標準に従い校正(または精度確認)をします。国際標準や国家標準がない場合は、自分で校正(または精度確認)の方法を決めて実施しても良いです。この場合には、どのような基準で校正(または精度確認)を行ったかを記録として残す必要があります。個々の測定機器は校正状態が、使用者にわかるようにしておかなければなりません。校正の際に、測定機器の精度が規格を外れていることがわかったら、その測定機器を用い計測した結果に問題がないかどうかを調べ、結果は記録に残さなければなりません。ロボットシステムに影響が及んだ可能性がある場合には、顧客に迷惑をかけないよう適切な対策をとりましょう。
SIerはロボットシステムに対して設計仕様のとおりにシステムが開発されていることを開発の各フェーズにおいて、事前に定義された検証計画に基づいて確認する必要があります。
検証によって得られた結果は再現性を有していなければならず、検証目的、検証設備・装置、検証手段、検証場所、環境、検証回数、検証条件、手順を定めた検証計画により検証条件を確定させる必要があります。検証によって、システムに要求される品質がロボットシステムに作り込まれたことを確認することになります。
製造工程中の検査、あるいは検証中に、要求通りの品質が得られない場合には、不適合と判断します。不適合が発生した場合、不良品の状況を確認する責任者、不良品の処理方法(供給業者への返却、再加工、修理、そのまま使用する特別採用)を判断する人、不良品の処理を行う責任者についてルール化し文書にしておくことが必要です。
また、不適合の処置を実施する場合には、記録として、発生状況と不適合の内容、対策処置判断、特別採用の場合にはその判断理由を記録に残さなければなりません。
発生した不適合の再発を防止する処置を是正処置と言い、不適合は発生していないが、同様な事象が発生することが予見される場合に未然に防ぐための処置を予防処置と言います。是正処置も予防処置もルール化し文書にしておくことが必要です。
ロボットシステムを構築した後に、システムの運用中に現場で発生した不具合(ヒヤリ・ハットや故障、異常事象)に対する処置に対しても、工場内の不適合管理と同様な管理が必要であり、取決め内容を文書化しておく必要があります。不適合が安全の確保を脅かす事象であった場合には、不具合の検出手段を決定し、アラート情報などで使用者に正しく早急に伝えることが大切です。
自らの組織の仕事が、決めた品質管理計画に基づいて実施されていることを定期的に(年1回など)確認、決めたプロセスに問題がないかを自ら確認する必要があります。確かめた結果、仕事の仕方がうまくいっているとの結果が出なかった、あるいはこのままでは予定どおりの結果が出ないことがわかった場合には、必要に応じて、仕事のやり方の修正、設備の調節や整備、是正処置、再発防止などの対策を実施します。
ロボットシステムに要求される品質を作り込むためには、必要な施設、設備に加えて、技術を持った人材の確保と配置が重要です。業務ごとに必要な力量を定義し、評価することで、十分な力量を持った人に業務を担当させなければなりません。対象となる作業者が現在有している経験と技能と考慮しつつ、その人に対してさらなる知識を身に着ける教育、技能を向上させる訓練を計画し、研修を実施することで、目標とするレベルにまで引き上げ、維持する必要があります。SIerとしては、自社内の人材のみならず協力会社の人材を含めてロボットシステム構築に関わるメンバー全員を力量の管理、確認の対象にしましょう。力量の確認には、教育や訓練を行った記録、技能を評価した記録、経験を示す記録に基づくことが必要です。
また、設計、製造中も顧客要求を基に設計仕様に盛込み(P)、設計、製造を開始(D)し、試験・検査で作り込み状況を確認(C)し、不具合などがあれば設計、製造に戻して処置をする(A)という活動の中に小さなPDCAが存在します。PDCAサイクルを回すことで、継続的にプロセスを改善していくことが大切です。